1995年3月20日。

この日付に見覚え、聞き覚えのある方も多いだろう。

数多くの人間の命が奪われたこの日、都内で二人の子供が生まれた。

『輪るピングドラム』の主人公、冠葉と晶馬である。


この物語は「家族」がテーマである。

幼い頃に「運命の果実」を分け合った三人の子供たち、冠葉、晶馬、陽毬が過酷な運命に翻弄されていく、というストーリー。

彼らの「両親」はとある秘密組織の幹部であり、警察に指名手配されていた。
なぜなら、その組織は1995年に東京で起こった地下鉄爆破事件の首謀者だったのである…。

1995年3月20日。

この日、現実の日本では何が起こったのか覚えているだろうか。

オウム真理教による地下鉄サリン事件である。

『輪るピングドラム』の作中ではこの日「地下鉄爆破事件」が起こるのだ。


それだけではない。

著名な評論家などは、1995年という年を大きな節目の年として言及することが多い。

地下鉄サリン事件の他、この年に起こった阪神・淡路大震災とそれに伴う平成不況長期化の確定などがよくあがる。


本作、『輪るピングドラム』では、この「95年問題」への意識が作品の随所に散りばめられているといえるだろう。

物語の序盤で陽毬が図書館でしきりに探していた小説『カエルくん東京を救う』は阪神大震災をモチーフにした村上春樹による短編小説であり、また本作のカギとなる「1995年に東京で起こった地下鉄爆破事件」が、地下鉄サリン事件を指していることも疑いようがない。

また、細かいところでは、図書館で、返却日が3月20日になっていたり(第9話)、本棚には村上春樹の『アンダーグラウンド』。この本は地下鉄サリン事件のインタビューを元に作った本だ。

他にも様々なところに事件を暗示させるヒントがあるのだ。


“きっと何者にもなれないお前たちに告げる”


作中に何度も現れるこの言葉は、社会が個人の生きる意味を供給してくれなくなった「95年以後」の社会を生きる我々日本人に投げつけられた厳しい宣告であるのかもしれない。